研究紹介 -バイオMEMS技術で医歯工学から極限環境計測へ-
ナノ周期構造のバイオ計測への応用
近年, 在宅医療診断や術中診断, 感染症の水際対策のためにDNA などの生体分子をその場で計測するオンサイト計測が求められています. 従来,
生体分子の測定には, 蛍光色素を使用する蛍光測定法が用いられています. しかし, 測定に用いられる蛍光測定装置が大型であることから, オンサイト計測には不向きであると言われています.
そこで, 蛍光測定装置を小型化し, オンサイト計測を可能にすることで在宅医療診断や術中診断に用いられ病気の早期発見, 早期治療につながると考えてます.我々は,光学素子であるフォトニック結晶を用いて,
蛍光を制御したスペクトル測定を行うことで, 蛍光測定装置の小型化が可能であると考えています. フォトニック結晶は, 特定領域の波長を増幅するという特徴がありますが,
フォトニック結晶の格子定数やサイズに依存するため, 計測対象物を変更するごとに新たなデバイスを作製する必要があります. そこで, フォトニック結晶の材料として温度応答性高分子を用いることで,
温度変化により構造を変化させ, 増幅する波長領域を任意に変更できるフォトニック結晶の作製を考案しました. 我々の研究グループでは,フォトニック結晶の格子定数変化による放出光の ピーク波長への影響を検証するとともに, 温度応答性高分子への転写を行い, 蛍光測定装置の小型化の可能性を検証しています. |
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![]() p. 901-902 (2017) |
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マイクロ流路を用いた海洋環境計測システム
地球温暖化や環境破壊などについて, 国際的に地球環境の変動を広範囲にわたって継続的に把握する取り組みの重要性が高まっています. 現在, 気候・大気・海洋などに関する各種の観測機器を搭載した衛星による観測が行われ,
広い範囲のデータを連続的に取得する技術が確立されつつあります. また, 現場における計測データと比較し校正を行うことで, より高精度な解析が可能になります.
現場計測と衛星観測データの統合を行い, 定期的に広範囲の環境変動を把握するための現場計測法が課題となっています. 観測項目の中でも二酸化炭素は, その増加が地球の温暖化の要因として考えられていることから, 大気中の濃度計測が多くの定点で行われています. 一方, 大気中の二酸化炭素の約30%は海水に吸収されることが知られています. 海水中の二酸化炭素濃度観測は, 地球全体の二酸化炭素量の見積りや気象変動の予測につながるため, 大気中の計測同様に重要です. 広範囲の海洋における二酸化炭素濃度を定期的に観測するために, 表層漂流ブイに取り付け可能な海洋表層二酸化炭素センサーの開発が進められています. 我々の研究グループでは, 従来の海洋表層二酸化炭素センサーを小型化・量産化することで, 表層漂流ブイなどに搭載する観測機器の集積化と観測定点数の増大をはかるとともに運用コストおよび測定溶液・材料の削減を目指しています. |
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イオン選択電極による口腔内モニタリング
1990年から2015年にかけた世界規模での調査によると, 口腔内疾患数は増加傾向にあると報告されており, 未病・予防の観点から虫歯などの口腔内疾患が進行する前に、口腔内の状態を把握することが重要です.
口腔内の状態をモニタリングするためには, 唾液に含まれる代謝物やイオンを計測する方法が有効であると考えられます. 現在, イオン濃度を測定する方法として,
全固体イオン選択電極 (Solid contacts Ion selective electrode, SC-ISE)が用いられています. イオン選択膜にはイオノフォアを利用しています.
このイオノフォアは生体膜において特定のイオンを輸送させる役割を担っています. そのため, 多種類のイオノフォアをISEに搭載し並列化することで多種類のイオンを同時に計測できるISEセンサアレイを作ることができます.
SC-ISEは標的イオン以外の夾雑イオンの影響が受けやすいことが昨今の研究課題です. 我々の研究グループでは, 多変量解析を用いることにより, 夾雑イオンの影響を低減させ, 標的イオン濃度を高精度に計測ができるデバイスを開発しています. |
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バイオMEMSによる細胞機能評価装置
細胞を扱う研究を行う上で, 継代培養は重要です. 十分に増殖した細胞を定期的に剥離, 希釈する操作を継代といい, これにより空間や栄養面での細胞培養環境を一定に保つことができます.
従来, 継代における剥離操作では酵素試薬による処理が一般的でしたが, 細胞外マトリックスを酵素分解することで強制的に細胞を剥離するため, 細胞膜の損傷が避けられませんでした.
一方, 組織工学の発展に伴い, PNIPAAm(poly-N-isopropyl acrylamide, ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド)などの温度応答性高分子を利用した細胞シートの剥離回収手法が広く研究されています.
しかし, 基板への高分子重合方法として主に電子線照射やプラズマ重合が用いられており, いずれの方法も容易ではなく, また高価な装置も必要となるため,
普及が進んでいません. 我々の研究グループでは, スピンコート技術を用いて簡便に温度応答性基板を作製し, 細胞シートの回収手法を継代操作に応用することによって細胞膜の損傷を抑えるとともに, 複雑な操作を必要としない新しい細胞継代培養方法を研究しています. |
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可搬性を持つ固体酸化物形燃料電池の開発
次世代エネルギーに必要な要素は1.高いエネルギー効率、2.高エネルギー密度、3.エネルギー燃料の種類の制約が少ないことである。
これらの要素を満たす候補として高温で作動する固体酸化物形燃料電池が挙げられ、定置用電源として実用化が進められている。
我々は新規材料合成、流路・デバイス作製の技術を応用し、可搬性を持つ固体酸化物形燃料電池の開発を進めている。
Tetsuya Yamada et al., ACS Applied Nano Materials, 2019. 図 固体酸化物形燃料電池の電解質なりうるジルコニアナノシートの合成 |
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マイクロリアクターを利用した固体酸化物形電解触媒の探索
カーボンニュートラルを達成するためには、自然の余剰エネルギーを利用して二酸化炭素をメタン、一酸化炭素などに還元しエネルギーや材料として有効活用する技術が不可欠になる。
そこで着目したのは、固体酸化物形燃料電池を逆駆動させることで高効率にCO2を還元することができる固体酸化物形電解である。
固体酸化物形電解の課題は十分に高温で作動する触媒材料が開発されていないことにある。
そこで我々は高温で活性を持つ触媒を探索するために、マイクロ流路とマイクロリアクターを使った独自反応容器を開発し安全かつハイスループットで触媒の探索をすすめる。
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